を訪問診療で支えます。
病院勤務医時代、総合診療医として様々な病気の診断と治療にあたってきました。内視鏡検査や救急外来、緩和ケアにも携わり、様々な状況にある方々と接してきました。診断はつくもののもはや治療できる状況にない、または治療法がない疾患を抱えた方。診断がつかない体調不良を抱えた方。診断して治療し、改善して退院してもすぐにまた病院に戻ってきてしまう方。治療するお金がない方。本当の困りごとは医療以外にある方。西洋医学ではどうしようもない方。そういった方々と接するうちに、病院の医療だけでは目の前の人の助けにならないかもしれない、と思うようになりました。ではこういった方はどこでどうやって日々を頑張って生きているのだろうかと疑問に思い、誘われるままに他職種の集う集まりに行ったことで介護や福祉の領域、そして在宅医療の領域を知ることが出来ました。
在宅医療の世界に少しずつ足を踏み入れるようになって、現代人は様々な生きづらさを抱えていることを実感しました。同時に、やはり医療だけで解決できる課題には限りがあることも実感しました。急性期の医療は診断と治療が大きな役割ですが在宅医は診断と治療を要する場面は急性期より少なく、相対的に医師が出来ることは少なくなります。その分関わる多職種との連携、そして専門職以外の繋がりや公的制度以外の知識といった幅広い「引き出し」が求められることを知りました。知れば知るほどに奥が深く、病院勤務医から在宅医になることを決心し研鑽を重ね、2018年6月1日に開業しました。
開業するにあたり重要視したのは以下のことでした。
個人の頑張りや犠牲の上に成り立つやり方では、いくら良いことをやっていても長く続けることは難しいと感じていました。自然災害や感染症など、健康な人でもいつ命を落とすか分からない中で大事なことは、個人ではなくシステムに依存したやり方を構築することだと考えています。高齢化に伴いニーズが増しつつある割に在宅医が増えない理由のうち大きなものとして「24時間365日対応がきつい、辛い」というものがあります。1人の頑張りで24時間365日の対応を長年続けることは、僕にとっては難しいです。このハードルを下げなければ今後在宅医がなかなか増えないだろうと思っています。そのため、理念を共有したチーム作りから始めることにしました。
当然と思われる内容かもしれませんが、実は在宅医療においてはそもそも「質の高い医療」とは何だろう、ということが明確にされていません。急性期医療と比べると尺度や評価基準が曖昧なのが理由だろうと思います。まず「質」を定義し、そしてそれを高めるために出来ることはなんだろうか?と考え続けるチームを作ろうと思いました。この議論を続けないと、診療報酬が大幅に改訂した時に大きな経営的打撃を受けたり、競合相手が現れた時に当院を選ぶ理由が少なくなってしまったりするのではないかと思います。
良い医療、ケアを提供したいと考えた時に議論の必要性については②で述べましたが、大前提として提供する側が楽しい、面白い、やりがいがあるなどポジティブな感情を常に持ち続けられる状況にいる必要があります。肉体的精神的に常に疲弊していたり、やりたいことをやれずに悶々としていたり、リラックスできる場面がなかったりすると良い医療やケアを提供できるはずはありません。そのため日々楽しさや面白さ、もっと言えば遊び心を大事にしています。
医療機関の受診というものは人生の中でできれば体験したくないイベントです。医療機関を受診すると長い待ち時間、待っている間のストレス、短い診察時間、費用負担と様々な負担が生じます。待ち時間や費用負担はどうしても改善できない部分があるため、足を運びたくなる空間作り、待っている間のストレスが少ない空間や仕掛け作りを心掛けました。その結果、周囲を自然に囲まれた築70年の古民家をリノベーションした診療所となりました。自然との関わりやのんびりできる、独りになれる場所というものは意外と現代社会の中に無いもので、自宅と職場以外の居場所が無いことによって生きづらさを抱えている人も少なくありません。「用がなくても足を運びたくなる場所」をコンセプトにしています。
在宅医はまだまだ数が少なく、ニーズが高まっていくとされる中そのニーズに応えられるほどの数がいません。そのため医学生や看護学生に対して在宅医療の魅力を語る場面や、実習や見学を受け入れることは非常に重要と考えています。専門職だけではなく広く一般の方にも魅力などを伝えていけるよう、要請に応じて様々な活動を続けていければと思います。